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keit@ blog

仕神けいたの執筆ホニャラカ報告書。

ひなた荘の裏。蜘蛛。

去年のデータがごたごたしていたので、少しずつ整理。
そんなときにあの「ひなた荘はナギの如く!」の元ネタが出てきましたよ(汗)。

更新日時:2004/08/04 23:21

これは……去年どころか一昨年の日付じゃんか……。
一応「ひなた荘~」のネタとしておいておこう。
でも、このまんま使うわけにはいかないよ(滝汗)。いつかきっと役に立つ……その程度だろうなぁ…………。

あ、ちなみに「ひなた荘~」の主人公は、当時は「ネジア」でした。
只者でない彼女の正体が『螺旋師』だったので。
今はまた正体は謎のまま。
つか、螺旋師って何さ? って言われそうだぁ……。
本日は晴天。
時計の指針が指すのは午後三時二十分。
彼女、ネジアは受験に備えての課外授業もなく、今日は寄り道もしなかったおかげで、いつもより少し早めに学校から帰りついた。
腰まで伸びる髪は、首もとより少し高いところで結い上げ、中学校では珍しい、ブレザーにチェックのプリーツスカートを揺らして、下宿先の玄関の戸をガラリと開けた。
今時珍しく、昔ながらの木枠にガラスといった引き戸だ。
田舎とも都会ともいえないこの土地では、皆、都会の装いをしたがっているのに、この家だけはマイペースといわんばかりに瓦屋根の木造二階建てをしている。

「ただいまー、キョーゴさ・・・ん・・・って、なにコレー!?」
ネジアは、玄関を開けたとたんに驚きの声を上げた。
無理もない。彼女の視線のあらゆる場所に、廊下に、玄関に、ゴミとも荷物とも判断のつかぬ物があふれかえっていたのだ。
「あ、ネジアさん。おかえりなさい」
奥の部屋から、似合わない花柄の三角巾をかけた青年がひょっこり顔を出した。
年の頃は二十代半ば。
ハタキを片手に、三角巾と揃いの割烹着を着た彼の格好は、彼女から見ても、どうしても下宿の主人とは思えなかった。
「キョーゴさん、なんですかこのゴミは!? 季節外れの大掃除ですか!?」
「ゴ・・・ゴミだなんて・・・・・・ひどいですよー、ネジアさん」
キョーゴは眉を八の字にする。
「だって、ゴミとしか言えないですよコレは」
ネジアは、足の踏み場もない、廊下に広がる山を器用によじ登りながら言った。
「これは私の物置にしまっていたものです。たまには整理しないとなにがどこにあるかわからないですからね」
「もお、じゅーぶんわからないと思う・・・」
漫画や、TVゲームなど娯楽のものから始まり、扇風機、掃除機といった生活用品、乳母車まで、ありとあらゆるものが所狭しとあふれていた。
足場を確保しながら廊下を行くが、不安定な山は、運動神経の良いネジアのバランス感覚をも失わせるのに充分だった。
温泉宿の名前が入ったタオルを踏みつけ、足を滑らせたネジアは、余る足で一時転倒を防ぐも、その足元にあったアヒルのおもちゃが容赦なく彼女を襲った。
「ぎゃあ! すべったー!」
「あっ、大丈夫ですか!? その辺は滑りやすいから気をつけてください」
キョーゴは瓦礫と化している荷物の向こうから遅い忠告をする。
「そおいうことは早めに言ってほしかったっス・・・」
ネジアは何とか自力で起き上がったが、ふと左の視界に入ったものを見て、またずるりとこける。
「リシギ!? こんなとこでなにやってんスか!」
「あ、おかえりネジア」
「ただいま。
 ・・・・・・いや、そうぢゃなくて・・・」
彼は、瓦礫に埋もれていても、相変わらず本を読んでいた。しかも、厚さがネジアの手のひらほどもある重そうな本を片手で持って読んでいるのだ。
「とにかく、みんな帰ってくるんスから、はやく片付けないとダメっスよ! リシギも本読んでないで手伝うっス!」
そう言うと、ネジアはカバンを放り投げ、ブラウスの袖をまくり、瓦礫を登りはじめる。キョーゴのいる物置の前までくると、
「ういっス!」
掛け声を出し、瓦礫を掘り始めた。
その手際のよさといったら、見事に生活必需品のみをかきだしていた。
「コレはいるコレはいるコレはいらないコレはいる!」
「ネ・・・ネジアさん・・・・・・」
「スッゲ・・・」
呆れともいえる表情を見せるキョーゴ。しぶしぶ動き始めたリシギも、呆然と見ている。
「何やってるんスか! 早くしないと夕飯抜きになってしまうっスよ!」
『は、ハイ!』


瓦礫の処分が始まってから一時間がすぎた頃、
「ただいまー! ねぇ聞いて聞いてぇ! 今日ねー帰る途中で五十円拾っ・・・た・・・・・・の・・・」
彼が喜びながら報告をするが、それも玄関を入ったとたんに広がる光景に呑み込まれていった。
当たり前である。
いつもはネジアの行き届いた掃除のおかげで、チリ一つもない廊下がゴミ山と化しているのだから。
「あー! ほらクロカが帰ってきちゃったっスよ! キョーゴさん、」

ネジアは、天井と壁の境目をじっと見ていた。
下宿しているお宅の、二階の彼女の部屋の前だ。
その視線の先には、手のひら大の足の長い蜘蛛。
「どっから入ってきたんだ・・・?」
目を離したら逃げられてしまいそうで、動けずにいるネジアの後ろを黒い影が迫る。
「・・・ネジアー!」
「なわぁああ!?」
変な声で驚く彼女の首に巻きついてきたのは、十歳ほどの茶髪の少年。
飛びつかれた勢いで、ネジアは前方の壁におでこを強かに打った。
赤くなったおでこをさすりつつネジアが振り向くと、同じ下宿人のクロカだった。
「ネジアーなにやってんのー?」
「クロカ! ちょっ・・・苦し・・・・・・ギブギブッ!」
クロカの腕をぺしぺし叩く。しかし、クロカははしゃぐ一方で話を聞こうとしない。そこで思いついたのが、
「キョーゴさん呼んできてくれたら×××あげるのになー」
蚊のように小さな呟きだったのに、クロカはピクリと反応する。
「ホントッ!? ホントねっ、ネジア!」
「よ、呼んできてくれたらね・・・」
耳元で叫ばれ、耳をキンキンさせながらもネジアが言うと、クロカは彼女からパッと離れて正面に向き合うように立った。
「まっててね、すぐ呼んでくるね!」
そう言うと、たったか走り去ってしまった。

――数分後。
ネジアと対峙してた蜘蛛は、今度はその距離を縮め、背の高いキョーゴと対峙していた。
やはり蜘蛛は微動だにせず。一方キョーゴは、
「・・・? キョーゴさん?」
「どーしたの、キョーゴさーん」
無言である。冷や汗まで流している。
いつまで待っても何もしようとしないキョーゴに、クロカは唐突に手のひらをポン、と叩いた。頭上に豆電球がついたようにも見えた。
「そういえば、クモって大きな音が苦手なんだよね?」
「え・・・? ええ、そういわれてるッスね・・・」
にっこぉ~、と満面の笑顔のクロカは、キョーゴの隣に立つと、
「クモさーん! 自分のお家に帰ってー!!!!」
その場どころか、近所一帯に響く突然のクロカの絶叫に、ネジアもキョーゴも耳をふさぐのが間に合わず、しばらく耳をキンキンとさせていた。
その直後、あたりから窓やドアを開ける音がいくつも聞こえてくる。
「な・・・クロカくん・・・・・・」
近所からの迷惑抗議を予想したキョーゴは、絶叫をやめさせようとクロカの肩をつかみ、彼の正面へと体を向き合わせる。
「んふふ」
クロカが嬉しそうに笑う。キョーゴはそれを諌めるように、彼の口の前で人差し指を立てる。
「クロカくん! ご近所迷惑になるでしょーが!」
だが、彼はにこやかな表情のまま。そして、
「やっぱりクモさんはおっきな音が苦手なんだね」
そう言ってキョーゴの頭上を指差した。
数秒間、キョーゴの動きという動きが全て停止した。
クロカの後ろにいたネジアは、あからさまにイヤな顔をしている。

その原因が、キョーゴの頭上に、気配を発して動き始めた。

「く・・・・・・・・・・・・きゅもうらおふぁklkaproqjfdagvnz※■×○~!!?」
叫びにもなり損ねた叫びが、キョーゴの口から吐き出されながらキョーゴとともに走り去っていく。
蜘蛛は、逃げ行く彼の頭の上でオタオタような動きで連れ去られていった。
残されたのは、ニコニコ笑うクロカと、呆然としたままのネジア。
彼女はポツリと一言漏らす。
「キョーゴさん・・・蜘蛛、嫌いなんだねぇ・・・」

しかし記憶力のほとんどない彼女は、数日後まったく同じ状況を、彼に味わわせる事になる。

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